Roots of Arts Roots
of
Arts
ZAWAMEKI ART
EXHIBITION 2023

ザワメキアート展って?

誰から教わったわけでもなく独自の創作を行っている。作品に強いこだわりが感じられる。よくわからないが、なんだかすごい。ユニークで笑ってしまうような不思議な魅力がある。…長野県では、そんな基準で選ばれた作品を2016 年から紹介してきました。 2022 年度以降は、これまでの「ザワメキアート展」のレガシーを継承しつつも、新たな試みとして、毎年様々な分野でご活躍のゲストキュレーターをお迎えし、それぞれの視点からザワメキアートの魅力を紹介していきます。

「Roots of Arts」に込めた想い

現生人類(ホモ・サピエンス)は、地球上の他の生物とは画されるさまざまな資質を備えているが、アートは最もヒトらしい才能の開花と言える。すなわちわれわれ人類を、「芸術するヒト」=ホモ・アーティエンス* と呼ぶことも可能だろう。現代キュビズムの泰斗ピカソが登場する遙か以前、4 万年前のフランスのショーベ洞窟にいた最古の画家たちも、すでに遠近法と立体法を駆使した動物の壁画を描いていた。ドイツのホーレ・フェルス洞窟では、白鳥の骨でできたフルートが発見された。絵画だけでなく、音楽も愛でていたことがわかる。今回は、ザワメキのアーティエンスの作品群中でも、原始的・根源的な香りのするアートについてご紹介することとした。すなわちルーツ・オブ・アーツである。
*堤による造語

Curation

堤 隆 (つつみ たかし)

考古学研究者

1962年長野県生まれ。國學院大學大学院博士課程修了。博士(歴史学)。専門は旧石器考古学、縄文考古学、博物館学。日本列島に最初に現れたサピエンスがどのような生存戦略をはかったかを研究。現在、明治大学黒耀石研究センター客員研究員。東京大学では旧石器研究を講義。館長を務めた浅間縄文ミュージアムでは、考古学のみならずアール・ブリュットなど多様な企画展を展開した。

※当WEBサイトに掲載されている作品が展示されない場合があります。

EXHIBITION

入場無料

長野県立美術館

B1F しなのギャラリーB / ホール

2023/12/9(土)-12/25(月)

〒380-0801 長野市箱清水1-4-4
TEL:050-5542-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9:00-17:00 (入場16:30まで)
12/13(水),20(水)

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WEB作品展開催

WEB作品展を2023/12/9(土)から開催予定です。
公開までお待ち下さい。

ARTISTS

ゲストキュレーター堤隆による
ザワメキアートのご紹介
順不同

牧 一雄

 

牧 一雄

まき かずお

 

1970年生まれ 飯田市在住

 

 

Story

支援者 社会福祉法人明星会 明星学園 正村 美千枝

 

今はもう彼は絵を描きません。それはこの5 月にお風呂の入り方について相談が持たれ、浴槽に入らないこと、シャワーを使わないこと、タオルやあかすりで体を擦らないでなどを決めてからのことです。彼は自分らしい自由を手に入れた時から、絵を描かなくなったと考えることができます。では、この数十年の間、どんな気持ちで彼は絵を描いて来たのでしょうか?彼の絵は強迫的です。例えば一枚の絵には動物のパーツを全部納めなくてはいけません。紙も全て塗りつぶさなくてはいけません。できるだけたくさんの色を使わなくてはいけません。結果として、それは「彼らしい絵」になって、自己表現の形となりましたが、その絵は「ねばならない」が、押し込められた不自由の象徴でした。新しい入浴のかたちが決まった後、彼の行動変容は「絵を描かない」だけに収まりませんでした。昔の思い出の品を大量に捨てる、コーヒーを飲まなくなり新しいジュースを飲む、髪を金色に染める、ボタンのシャツを止めてシャツを着る… etc。「俺は自由だ!!」を急ぎ足で進めているように見えます。

 

 

 

 

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複雑な図形とややアンダーな配色の組み合わせ、牧さんのパッチワーク表現が「押し込められた不自由の象徴」だということを聞いたときは少しショックでした。だとするなら、不安を可視化したともいわれるムンクの「叫び」にも似た要素を、この絵に求めることになるのでしょうか。いずれにせよ今は絵筆を握らなくなったという牧さんの心が自由へと向っているならば、むしろ絵画に向き合わなくてすむことを喜ぶべきなのでしょう。( 堤  隆)

 

 

 

 

 

 

澤田 和樹

 

澤田 和樹

さわだ かずき

 

1998年生まれ 駒ヶ根市在住

 

 
Story

支援者 社会福祉法人アンサンブル会 アンサンブル駒ヶ根 水間 順子

 

「見て!澤田さんがおもしろいことやってる!」澤田ワールドを見つけたのは令和2 年5月アンサンブル駒ヶ根での生活がスタートして数日目のこと。どこから見つけてきたのか指先サイズの小石や土の塊がいくつも集められ、一粒つまんでは向きや間隔に拘ってじっくり時間をかけて並べられていました。人が多く集まる場所から少し離れた緑茂る静かな場所で、3年が過ぎた今でも毎日夢中になって真っすぐな視線で吟味して並べています。小石並べから始まった澤田さんの心の表れは、ゆっくりと着実に、そして表情も豊かに広がっていることを感じます。王滝村の穏やかな環境で育った澤田さんは優しくて力持ち。両手が塞がった職員のためにと玄関ドアを開けてくれて、「今日もありがとう」とハイタッチ。たくさんの草運びを根気良く続けてハイタッチ。これからも安心できる仲間の中で、ささやかだけど大切な経験を重ねながら澤田さんの心が豊かに弾みますように。真っすぐな視線とにこやかな優しい瞳が、ずっと続きますように。

 

 

 
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京都龍安寺石庭。白砂に配された15 個の石は、戦乱に明け暮れた室町の安寧を祈るミクロコスモスのようです。さかのぼること今から3 万7000 年前、佐久市香坂山遺跡からは拳大の石を並べた日本最古の配石が発見されました。日本列島に最初に訪れた私たち人類は、どんな意図で石を置いたのでしょう。澤田さんの石を並べる思いに、考古学的な推理を働かせるのは野暮というものかもしれません。しかし、長い時間をかけて一心不乱に石を配する姿を想像すると、記憶を再配置するような重要な意味をもつのでは、などとつい考えてしまいます。そして今日も、棋士が碁盤に真摯に向合うかのように、澤田さんの指は小さな石を打つのです。( 堤  隆)

 

 

 

 

 

 

吉田 雅美

 

 

吉田 雅美

よしだ まさみ

 

1982年生まれ 北佐久郡立科町在住

 

 
Story

支援者 社会福祉法人しらかばの会 たてしなホーム 小野 道佳

 

「絵本作家になって、私らしく生きたい!」自身で絵本や紙芝居を作る吉田さんにはそんな夢があります。吉田さんが朗読をするようになったきっかけは、好きな相撲の図鑑を読んでいる時だったと思います。「好きなお相撲さんは?」「横綱はどの人?」と尋ねると、名前・出身地・相撲部屋など、その力士に関する情報を詳しく読み上げてくれました。始めは、ただコミュニケーションの一つとして片言に話す程度だったのですが、たまたま班室に置いてあった短編エッセイ集を渡してみると、大変興味を持たれて朗読し始めました。その後、施設の皆さんに読み聞かせをする活動も行い、それが今に繋がっているようです。生活でも、たいていの時間は自身の居室で好きなテレビを観て過ごしていて、自分から進んで人に話をするタイプではありません。なので、こんなにたくさん吉田さんの声が聞ける朗読の時間は、とても大好きです。

 

 

 

 
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あたたかい缶コーヒーを飲み終えると、吉田さんは日記を手にし、朗読を始めました。4 月5 日の日記には「春野菜のスパゲッティ、豆腐のスープ、インゲン豆のサラダをおいしくいただきました」と、昼のメニューについて書かれています。言葉は発したそばから宙に舞い、消えていきます。録音や文字記録のない限り、どのような言葉が語られたのかをたどることができません。したがって人間がいつから言葉を手にしたのかを証明するのは難しいのですが、少なくともわれわれサピエンスは、アフリカの大地に登場した時点で言葉を持っていたのではないか、と考えられています。吉田さんの日記には、几帳面な文字がびっしりと並びます。そこからは日々の暮らしが浮かびあがってきます。( 堤  隆)

 

 

 

 

 

 

コアラ

 

コアラ

こあら

 

長野県在住

 

 
Story

支援者 NPO 法人リベルテ 武捨 和貴

 

何度かのアトリエのお休みを挟み、コアラさんは今、roji というアトリエにいる。ダンボールや木の板にイベントカラーを塗ることは、「はい」と、体調が良ければやりたい気持ちでスタッフに希望を伝えてくれる。スタッフと始めた絵画も家族や自画像「自分」を描き2022 年の「第5 回日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 公募展」に入選した。新聞紙を水に浸しボロボロに溶かしたものを絞るように丸め固めた作品を作り始めたのも同時期だ。最初はキャンプ用の紙薪をグッズで作れるか試しに始めたものだった。‘ぎゅうっ’ と握り、お湯に溶けた新聞紙から水気を絞り出す。握り飯をつくるように両手で力を込めて握る。いつの間にか乾燥した新聞紙の塊にダンボールや板と同じ用に彼自身がペイントしていた。クリスマス前にオーナメントにしようかという話題もあり、他のアトリエメンバーと色を塗るワークショップでカラフルな新聞紙の「塊」が沢山できた。

 

 

 
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何度かのアトリエのお休みを挟み、コアラさんは今、roji というアトリエにいる。ダンボールや木の板にイベントカラーを塗ることは、「はい」と、体調が良ければやりたい気持ちでスタッフに希望を伝えてくれる。スタッフと始めた絵画も家族や自画像「自分」を描き2022 年の「第5 回日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 公募展」に入選した。新聞紙を水に浸しボロボロに溶かしたものを絞るように丸め固めた作品を作り始めたのも同時期だ。最初はキャンプ用の紙薪をグッズで作れるか試しに始めたものだった。‘ぎゅうっ’ と握り、お湯に溶けた新聞紙から水気を絞り出す。握り飯をつくるように両手で力を込めて握る。いつの間にか乾燥した新聞紙の塊にダンボールや板と同じ用に彼自身がペイントしていた。クリスマス前にオーナメントにしようかという話題もあり、他のアトリエメンバーと色を塗るワークショップでカラフルな新聞紙の「塊」が沢山できた。

 

 

 

 

 

 

齋藤 匡広

 

齋藤 匡広

さいとう まさひろ

 

1977年生まれ 北佐久郡立科町在住

 

 
Story

支援者 社会福祉法人しらかばの会 たてしなホーム 小野 道佳

 

ある日、4・5 人のグループで、相撲の話をしながら、制作活動を行っている時のことです。齋藤さんは、おっぱいの形の作品を制作されていたので『何を作っているの?』と尋ねると「御嶽海のおっぱいを作っています。」と答えてくれました。「え~!」っと、みんなで爆笑しました。全部大きさや形が違っていて、それぞれ違う力士のようなのです。なるほど!と目からうろこでした。その次の月にはお相撲さんのお尻を製作されていたので、齋藤さんの人と違った視点や発想はおもしろいな~、と感心させられました。日々の仕事では、烏骨鶏の世話や、畑仕事を行っている齋藤さん、今後もどんな作品を生みだしてくれるのかが楽しみです。

 

 

 
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東北地方の3,000 年前の縄文土偶には、ドングリのように飛び出した巨乳を持つものがあります。土偶は通説では、妊娠した女性像などとされるものです。お椀を伏せたように立派な齋藤さんのオッパイ作品を拝見して、まさにそうした“母性の根源”を表現しているのだ!とひとり悦に入っていたところです。しかし、その期待とも呼べるものは見事に裏切られました。イッパイあるオッパイは、おすもうさんのそれだというのです。しかもそのひとつは、信州の誇りでもある御嶽海関のオッパイらしいのです、なんと!「考古学者 みてきたような ウソをいい」という揶揄は当たりかもしれません。それに、よく見ると茶色いのは黒糖まんじゅう、白いのは酒まんじゅうにも思え、おいしそうです。( 堤  隆)

 

 

 

 

 

 

湯本 久子

 

湯本 久子

ゆもと ひさこ

 

1965年生まれ 長野市在住

 

 
Story

支援者 NPO 法人 ポプラの会 坂田 恵理子

 

湯本さんが絵を描こうと思ったのは、奥津国道、野村重存の画集や植物画に出会ったことがきっかけだそうです。それまで美術への関心がなかったとは、今の湯本さんからは想像できません。当初の作品は植物や生活雑器が多かったのですが、いつからかペットが登場。今は亡き犬の“もも”、元気なインコの“青ピッピと黄ピッピ”、 アンデスの歌うネズミ“デグーマウス”、そして金魚の“隆ちゃん”、「金魚はなんとも不自由な生き物。何も言わないし気にしてあげないと生きられない。きれいな姿で泳ぐ姿に癒され、その姿を描きたいと水彩画や鉛筆で描いている。15 年くらい飼っていて今4匹。ペットは私にとって1 番心が許せる存在です。」ポプラの会で制作活動を始めてから10 数年。湯本さんの作品は変化し続け、描き始めたころの表現はもうありません。でもなぜか新作を見るたびに、初めのころ描いた2枚の青い絵が浮かんできます。それらは、湯本さんの持つ根源的なものの証だからでしょうか。変わるものと変わらないものをたずさえて、次はどんな作品になっていくのか楽しみです。

 

 

 

 

 
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月の詩(うた)と題する湯本さんの作品(左頁)は、曲線と球体から構成されます。あえて太陽でなく月からは、実際、どのような詩が奏でられるのでしょう。インタビューに答えてくれた湯本さんは、球体はよく描くといい、「自分の中の宇宙」を表現しているのだとおっしゃっていました。本来、生き物などの具象画から絵の世界に飛び込んだという湯本さん、絵を描くことで心に落ちつきが持てたといいます。さらに抽象の世界を描くようになった心の変化とは、いったいどこにあるのでしょうか。湯本さんの絵を見たとき、現代アートを牽引した池田龍雄さんの作品群を思い出し、オマージュにも似た感覚が不思儀に呼び起こされました。( 堤  隆)

 

 

 

 

 

 

笠原 正人

 

笠原 正人

かさはら まさと

 

1976 年生まれ 上田市在住

 

 
Story

支援者 NPO 法人ぽけっと 大野 征子

 

赤、青、黄色の3原色、そして白があればさまざまな色が作り出せます。自分だけの色の配合に喜びもわいてきます。笠原さんの作品にもそうした独自な色の配合があるようです。彼は描きはじめると、ぐるぐると腕を回してまず線を描き出します。そしてさまざまな色を重ねます。出来上がった作品には、いつも人の目や心を奪うような大胆な色使いと線が描かれています。控えめな彼からは想像もつきません。それは「書」でも同じです。ぽけっとでは、ビルや割烹の掃除、配達の仕事を黙々とこなしている笠原さんですが、時には縁側に座って背中丸め、好々爺のような姿で周りの人々の動きと声を耳にし、楽しんでいます。新聞紙を細かく切って貼っていく本作品も、そんななかで根気よく仕上げられたものです。

 

 

 
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たくさんの細片の集合体がレイヤーをなしています。よくみるとその一片一片はニュースペーパーなどをちぎったものです。“ぽけっと” で見た笠原さんの作品は、活字の黒や商業広告、天気予報などのさまざまなカラーが、ちぎられて、貼り付けられ、融合して、微妙な色合いをみせています。ちぎり絵は、私たちになじみ深いものとして山下清さんの作品などがありますが、たとえば代表作のひとつ“長岡の花火“などが写実的なのに対し、笠原さんの作品は抽象的、細胞が濃縮されたかのようにも見えます。きっとたくさんの時間を費やして、ひとつひとつの細胞を生体へと織りなしていく 、そんな作業をしているのだと思います。( 堤 隆)

 

 

 

 

 

 

鶴見 洋一

 

鶴見 洋一

つるみ よういち

 

1975年生まれ 安曇野市在住

 

 
Story

支援者 NPO 法人WHITE CANVAS 石岡 享子

 

洋一さんはいつも自作の顔のオブジェ「シュワちゃん」を持っています。アルミホイルの骨格、目には赤く光るライト、頭蓋骨にはメモリーチップが入っていて、口を開けると歯が並び、顎は開閉式でパクパク動かすことができます。骨格は医師も驚くほど正確です。洋一さんの傍らにたえずシュワちゃんがいて、私が出会ったばかりの頃は、私たちの問いかけや挨拶にシュワちゃんが答えてくれていました。今は亡きお父様に教わったという粘土創作をずっと続け、今では粘土やアルミホイルを手にすると、1 分程であっという間に造形が完成します。2 年前、私たちのアトリエにいらしたときはいつもドクロを作っていましたが、その半年後から、様々な人や動物の顔を作り始め、手や足も生えるようになりました。そして定期的にドクロのシーズンが帰ってきます。ドクロも、メモリーチップの入ったアンドロイド型、猿、人間など、実際は様々なバリエーションがあります。洋一さん自身も、ミラーレンズのサングラスをかけたり、束ねた長い髪に中折れ帽子を被ったり。でも足元は可愛い猫の靴下だったり。こだわり抜いた存在そのものが洋一さんの作品のようです。穏やかな微笑みの中でも、常にブレない世界観を持っています。

 

 

 
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これは人類進化に関する新たな仮説だ!鶴見作品を見てそう思ったのは、考古学研究者の職業病なのかもしれません。しかし、これらアルミの頭蓋において、メモリーチップの入ったアンドロイド型、猿、人間など様々なバリエーションがあり、手も足もあるものがある、ということからも、その推論にあながち飛躍があるとも思えません(…かなりありますよね)。メモリーチップを挿入されたアンドロイドとは、AI 技術に支配された人間の姿にも映ります。坂本龍一の作品に“ビハインド・ザ・マスク” という楽曲があります。マイケル・ジャクソンなどもカバーするこの曲の意味するところはややシニカルですが、本来“仮面の裏” に隠されているのは“真実の顔“であり、鶴見さんの本当の思いがこのマスクの中にこもっている気がしてなりません。( 堤  隆)

 

 

 

 

 

 

宮﨑 義治

 

宮崎 義治

みやざき よしはる

 

1969年生まれ 北佐久郡立科町在住

 

Story

支援者 社会福祉法人しらかばの会 たてしなホーム 小野 道佳

 

宮﨑義治さんがたてしなホームに来られた当初は、あまり落ち着かない様子で、掲示物の紙をやぶいたりしていました。しかし、よくよく考えてみると、宮﨑さんは「紙をちぎることが上手なんだ」と逆に気付かされたのです。新聞・広告・段ボール、何でもちぎるのが上手です。思えば、その気付きが、これらの作品群を生み出すきっかけとなりました。せっかくうまくちぎれたのに、その紙をそのまま捨ててしまうのはもったいない。そして、紙きれをボンドで段ボールに貼ったり、その上から絵具で色を塗ってみたり、また剥がしたりと、自由に制作していただくことになりました。掲示物などをやぶく行為が、今では「宮﨑さんの作品ってすごいね」と、高く評価される理由になったのです。宮﨑さんは今も、制作活動をコツコツと続けています。作業の終わりに飲む缶コーヒーが至福の時間をもたらします。

 

 

 

 

 

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平板なデジタルアートでは表現し得ない微細な“ちぎり” や“めくれ” による陰影、あるいは手打ちの無数のドット、これらが宮﨑作品の命脈を保っています。ひとつひとつのポイントを落とすのにいったいどれだけの時間が費やされているのでしょう。たとえば3D プリンタをもってしても、極薄の紙のしなやかさまでを表すのは困難だと思います。作品にはさまざまな色彩が散りばめながらも、ピンクなどの色の主張がよりいっそう鮮やかです。人類学者レヴィ = ストロースが近代合理主義の対岸に見たのは、始原あふれる先住民社会での「野生の思考」であり、画一化に反し、さまざまな要素をコラージュする“ブリコラージュ” の手法です。ポップな宮﨑作品ですが、同様に合理性とは相反する文脈が見てとれます。( 堤  隆)

 

 

 

 

 

 

竹内 一貴

 

竹内 一貴

たけうち かずき

 

1986年生まれ 伊那市在住

 

Story

支援者 社会福祉法人 長野県社会福祉事業団 長野県西駒郷 小川 泰生

 

私が支援員として竹内さんと出会ったのは5年前。クレヨンを渡すとすぐにグルグルと手が動き始め、その活動時間中に止まることはありませんでした。まるで自らの存在を作品に刻み込んでいるかのような圧巻の制作風景は今でも鮮明に覚えています。そしてその制作スタイルと作品に向かう熱量は現在も変わりはなく、日々制作に取り組んでいます。以前と異なるのは昨年から画用紙からキャンバスに描くようになったことでしょうか。画用紙に描いていた時はかなりの頻度でボロボロになり破けることが多く、本人もやり辛そうでした。丈夫なキャンバスに変えたことで、クレヨンや絵具を重ねた後にニードルで削るという今の表現に集中できるようになった様です。

 

 

 

 

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漆黒の背景の上に描かれたさまざまな彩色。竹内さんの絵を見て私は、ラスコー洞窟の闇の中に描かれた旧石器時代壁画のことを連想しました。フランスにいたサピエンスたちは、一寸の光も届かない闇の中に壁画を残したのです。描かずにはいられない、竹内さんの手はクレヨンを持つと止まることなく、色を塗り重ねるのだそうです。竹内さんを制作へと突き動かす衝動とは何か。それは、このアート展に展示された作品のひとつひとつに問いかけたい根源的な理由でもあります。ちなみに人類が握った最古のクレヨン(顔料石)が、南アフリカのブロンボス洞窟から発掘されています。ただ残念なことに、7 万5000 年前とされるそのクレヨンで描かれた作品そのものは見つかっていません。( 堤  隆)

 

 

 

 

 

 

大久保 文子

 

大久保 文子

おおくぼ ふみこ

 

1974 年生まれ 上田市在住

 

 
Story

支援者 社会福祉法人 かりがね福祉会 風の工房 古平 卓郎

 

文子さんは、お母さんと2 人で暮らしています。広い庭や畑があり、家事や庭仕事も手伝います。近くに住んでいるお兄さんも毎週末買い物などをお手伝いにきてくれます。自分の気持ちに素直で、好きな人にお花や手紙をプレゼントして想いを伝えるキュンな一面もあります。文子さんは、かつて通所していた事業所で「機織り」と「シール貼り」をされていましたが、「好きな色の可愛い毛糸ちゃんを好きなように織りたい!好きな色のシールちゃんが使いたい!もっと自由に好きなようにやりたい!」とその思いは爆発、風の工房に移りこんなに面白くて可愛い作品たちが生まれました。織る時に両サイドに毛糸を小さく巻いた「こまきちゃん」を織り込む技法などスタッフの提案も取り入れながら「かわいい♡」ものづくりは日々進化しています。

 

 

 

 
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その、ひと編み・ひと編みには、どんな想いがこもっているのでしょうか?大久保さんの編み物には手あみの素朴さが残り、さまざまな色の中にもピンクなどの暖色が混ざって春色で、ぽかぽかと気持ちよさそうです。あたたかい手編みのセーターやマフラーは、誰かのことを想って編まれる思慕あふれるものでもあります。そこには他者へのまなざしが存在しています。編むという行為は原初より人間の暮らしの基本です。縄文土器にも多様な編み物の圧痕が残されています。ヒトは縦横の糸を織りなすことで、寒さにたえる暖かい衣服をつくりました。一方で、新しいファッションの文化や芸術を創造してきた、ということもできるでしょう。( 堤 隆 )

 

 

 

 

 

 

主催  長野県 | ザワメキサポートセンター
共催  長野県教育委員会 | 信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)
障害者芸術・文化祭のサテライト事業
長野県県民芸術祭2023 参加

© ZAWAMEKI SUPPORT CENTER