斎藤 辰夫
さいとう たつお
1929 年生まれ 松本市在住
ノートのマス目のひとつ、ひとつが、不思議な記号で埋め尽くされている。斎藤さんは、何かをつぶやきながら、毎日マス目を埋めていく。それは彼にしか解読できない文字なのだろうか?
「無題」
ボールペン、ノート
彼彼が暮らす施設のスタッフが、あるとき『ノートにこんなことを書き続けている人がいるんです。』と何冊かのノートを見せてくれた。 国語の漢字練習帳のマス目を、作者しかわからない文字なのか、記号なのか、不思議なカタチ、模様、線で埋められている。 それはまた元のページに戻ってさらに書き重ねられている。 ページをめくると、また新たな世界が現れてくる。 施設での生活が長い作者がいつからこんな表現行為をしているのかは、支援スタッフも代替わりしてわからないという。にぎやかなところが苦手な彼は、活動の部屋の片隅で、あるいは自分の部屋で、ひそかに、黙々とのノートに向かって書き続けている。 毎日毎日、自分の頭に浮かぶモノガタリをつぶやくかのように、あるいはお経をとなえるかのように、一つ一つマス目を埋めていく。 誰に何と言われようと、どう評価されようとひたすら埋めていく。 黙して語らない彼であるが、なんとおしゃべりなノートだろうか。 ノートを開けば、ペチャクチャとおしゃべりが聞こえてくる。