下山 健さんの絵“アウラちゃん”

 

 

 

 ザワメキアート展2025 に選ばれた下山 健さんの作品には、“アウラちゃん”と呼ばれる不思議な女の子が描かれます。マジックの濃い線で描かれる女の子の絵には、それぞれに微妙な差異はあるものの、まるでコピー機で複写したかのような反復性があります。下山さんの制作が繰り返され、作品が連なっていくことで、その奇妙さが一層際立つことでしょう。そしてなによりも、そのニコやかなアウラちゃんの微笑みの表情は、出会った人の心を“ザワザワ”と揺さぶる謎の魅力に溢れています。
そしてその背後には、さらに得体の知れない存在がアウラちゃんに寄り添うかのように描かれます。それらはロボットや怪獣、妖怪のようなコミカルなデザインであり、とても強いキャラクター性が感じられます。しかし、黒い線画のアウラちゃんに対し、色鉛筆で淡く描かれ、塗られたキャラクターたちはカラフルでありながらもどこかボンヤリとした霞のような印象を受けます。

 

 

ひとつの画面を共有する試み

 

左:制作する下山さん 右:制作するたかはしびわさん

 

 今回のザワザワマッチングでは下山さんと、佐久市在住の画家であるたかはしびわさん が一つの画面に共に絵を描くという実験的な作品制作を行いました。用意した白い紙張り パネルにまずは下山さんがいつものように“アウラちゃん”を描きます。
たかはしびわさんは「全人類をペンギンに置き換える」というテーマで世界に蔓延る人 間の日常をペンギンたちに変換した戯画を描いてきました。20 年以上、キャラクターとし て擬人化されたペンギンを面白可笑しく、時に悲壮的に描いてきた、たかはしびわさんに “アウラちゃん”の背後に、ペンギンを描き込んでもらいます。

 

左:下山さんが最初に描いた絵  右:びわさんがは背後にペンギンを描き込む

 

 ここで一つ、愉快な問題が起きました。私たちがてっきり“アウラちゃん”が描かれて くると思ったパネルに別の人物画が描かれていたのです。大きく新しいパネルが用意され たことで下山さんもいつも以上に張り切ってくれたのでしょうか。どうやら“岡庭文緒さ ん”の似顔絵を描いてくれたようです。岡庭さんは夢のつばさのスタッフさんで、いつも 下山さんと仲良く支援に関わっている方でした。今回の下山さんの絵は、いつもの量産 されてきた“アウラちゃん”ではなく、オリジナリティを感じさせる画風でお気に入りの 方の人物像を一点物の絵で描いたのでした。嬉しい誤算です。
たかはしびわさんもてっきり“アウラちゃん”が描かれてくると思っていた中、違う人 物像が登場したことに驚いたようです。しかし、デッサン的なドローイングでこれまで何 千回と描いてきたであろうペンギンをスラスラと描いてくれました。下山さんがいつも“ア ウラちゃん”の背後に描く存在を意識し、鉛筆のドローイング線を指でこすり擦れさせな がら陰影をつけてその像自体を曖昧なものにする描画法でした。

 

 

たかはしびわさんの感想

 

 

 

 

 

びわさんのアトリエ倉庫にて

 

Q1:下山さんが最初に描かれた絵はいかがでしたか?

たかはしびわさん
予想していたマジックで描かれたアウラちゃんではなく、パステルで描かれた女性の絵で したが、また別な魅力のある絵だと思いました。

 

Q2:下山さんの作品に対して自身の絵を描き込むこと、この体験はいかがでしたか?

たかはしびわさん
下山さんの絵は、手前のアウラちゃん(今回は別な女性)と背後の霊的なものでできてい ることが多く、今回私は背後の霊的存在パート担当ということでしたので、自分の絵を描 き加えることには大した抵抗はありませんでした。 今回は下山さんのパートがパステルで描かれており、私のパートは鉛筆で描いたのですが、 お互いの明度が近く、結果として不思議なシルエットができていて、自分だけのセンスで 描く場合とは違う、共同制作の意義がある絵ができたと思います。

 

二人の出会い

 

  2 月16 日(火)、たかはしびわさんが下伊那郡阿智村の夢のつばさに訪れ、下山さんと 初対面を果たしました。そして、ザワメキアート展2025 に出展された作家さんに贈られ る記念品を直接手渡ししてから共同制作の準備に取りかかります。
下山さんが最初に描いた人物画に、たかはしびわさんが追加でペンギンを描き込みまし た。最後は二人揃って余白をさらに埋めていきながら、同じ制作時間を共有し絵を完成へ と向かわせます。

 

 

コラボレーション制作

 

 

 2人が選んだ画材はクーピーペンシルでした。一枚のパネルを囲み、それぞれが思い思 いの絵を描いていきます。たかはしびわさんはカラフルなペンギンたちのパターンで余白 をバランス良く埋めていきます。下山さんはピンク色のウサギのような小動物の顔を描い たり、“ハートちゃん”という新キャラクターを描いてくれました。“ハートちゃん”は翼 が生え、ティアラをつけたハートに、長いまつげのつぶらな瞳が魅力的なとてもファンシー なキャラクターです。
びわさんが下山さんをエスコートし、描きやすいようにとパネルを廻しながら、次に描 く場所を一緒に考えながら制作が進みます。びわさんが下山さんの絵を褒め、下山さんが 顔を覆って照れ笑いする場面が生まれたり、制作に満足してペンが止まった下山さんをさ らに奮起させる場面もありました。一枚の絵を2人の作家が共同で描いていく中に、会話 とはまたちがったコミュニケーションの様子をみることができました。

 

 

完成

 

 

 小一時間にわたる共同制作の時間はあっというまに終わり、画面の余白も2人の絵で埋 め尽くされました。最初はやや緊張されていたのか表情が硬めであった下山さんも、びわ さんに明るく話しかけられることで制作途中から微笑みを浮かべるようになり、最終的に は満足そうな表情で自慢げな様子をみせてくれました。完成された作品を持って2人で記 念撮影を行った後、下山さんの絵のモデルとなったスタッフの岡庭さんが登場。こんなふ うになったんだ! と驚く岡庭さんを前に、その日一番の照れ笑いの表情を見せてくれた下 山さん。憧れの人に絵を見てもらえて大きな喜びがあったようです。
下山健さん、たかはしびわさん、2人のおかげで素敵なザワザワマッチング企画を行う ことが叶いました。そしてそれぞれの個性が発揮された素晴らしい作品が完成しました。

 

レポート 鈴木 一史(小海町高原美術館学芸員)

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