永田 晴樹
ながた はるき
1976 年生まれ 茅野市在住
ある日のアート活動の時間に、永田さんは画用紙の四隅をちぎり、どんどん破っていって、水をたっぷり含ませた筆で濡らし、更に絵の具を塗り始めた。それは、それまで形のあるものを作っていなかった彼が、何かを作るという意識が芽生えた瞬間だ。そしてできあがったのは、宝石の原石のような美しい紙片だった。
「無題」 水彩絵の具、紙
作者は、常に何かに追い立てられるように自分の目につくものを整理し、片づけようとする。時にそれは困った行動に思われてしまうが、そうせずにはいられないのだろう。机上のものはあるべき場所に戻し、目につくものを忙しく片付ける姿。時には、だれも気づかないほどの小さなごみを拾っては、自分の視野から消さずにはいられないかのように捨てている。
通所する福祉事業所のアートの時間では、最初は画用紙にクレヨンでぐりぐりと色を塗っては、細かく破いて捨てることを繰り返していたが、ある時、画用紙の周辺をちぎり始め、残った部分を筆に水をたっぷりと含ませて濡らし、さらに絵の具を塗り始めた。そして何度も塗り重ねたその紙片をそばで見守っていた支援者にふと渡してくれた。それまでは破いて捨てるという自分だけで完結してしまう一連の行動から、他者に自分の表現を手渡した始まりである。それ以来このような表現方法が続いている。そして少しずつ画用紙の周囲をちぎる形も変化している。残されたこの紙片は、まるで地中から掘り出された宝石の原石のようだ。(関)
「無題」2019