西村 美恵子
にしむら みえこ
1970 年生まれ 駒ヶ根市在住
西村さんはまず、目と顔の輪郭を描く。そして、その顔の右半分をぐるぐると何重もの円で囲む。その強烈なタッチは紙に穴が空いても続けられる。彼女は納得がいくと「おしま!」と言って、席を離れる。彼女の暮らす施設ではそういった日常が繰り返されている。ひとつの絵には終わりがあるが、彼女が作品を描き続ける行為には終わりはないようだ。
「無題」
油性マーカー、クレヨン、色鉛筆、紙
2019年図録より
作者は以前からクレヨンや色鉛筆で車の絵を描いていた。「のりものダイスキ!」なのだろう。最多分「かお」を表現した(作者はなにも語らない)作品のガバッと開いた大きな口、見開かれた目が観るものをとらえて離さない。強烈な印象だ。
作者は福祉事業所のアトリエにやってくると、いつものパターンのように画用紙に向かって、油性ペン又はクレヨンで顔の輪郭、二本ずつの眉毛、目、口のラインを引き、そのラインに沿って何度もペンを走らせる。ぐるぐると納得いくまでペン(またはクレヨン)を回す。何度も描き重ねられたことろは、筆圧が強いため破けて穴が空いてもいる。そして一定のぐるぐる回す行為が終わると、その上にシールを貼っている。なぜか口の周りに。作者の表情は硬く、黙々と一連の作業をこなしているかのようだ。そして納得いくまで描くと「おしま!」と言い、アトリエから去っていく。何かを訴えているようなカッと見開いた目、何かを叫んでいるような、吸い込んでしまうような口。何かのつぶやきがこぼれ出ているような口。出来上がった作品は不気味でさえもある。言葉で自分を表現し、他者とつながることが苦手な自分。自閉症スペクトラム傾向の強い作者はその感覚の過敏さゆえに、いつも何者かに脅かされている感覚、得体のしれない不安感の中にいるのかもしれない。
そのままならない自分の叫びを、作者は画用紙にペンやシールを使って吐き出しているのかもしれない。(関)
「無題」2019
「無題」2019
「無題」2019