乾 明弘
いぬい あきひろ
1969 年生まれ 北佐久郡立科町在住
ペンや鉛筆を持った手を小刻みに動かして、紙の上に小さな線を重ねていく。何度も繰り返し同じ箇所に線を描くので、紙に穴が空いてしまうこともある。乾さんは不満なことがあると繰り返し口に出してしまうことがあるが、絵を描いている時は静かに描き続けている。
「無題」 色鉛筆、油性ペン、水彩絵の具、紙
乾さんは普段は穏やかだが、気になることがあると、とことん気になってしまう。欲しいものがあるとすぐにでも手に入れないと気がすまなくなって、不安定になってしまう。作品を制作している時にも「コンビニに行きたい!」「ヨーグルト買う!」などと希望を口に出すのは、その欲望を鎮めようとしているからなのかもしれない。そんな乾さんが作ると、どの面もまんべんなくチクチクと穴が開いた陶芸作品ができる。長い年月波にさらされた岩の一部のようなトゲトゲした表面を見ると、痛みや不安が感じられる。しかし、制作中の乾さんは怒りをこめてブスブスと刺しているわけではなく、静かに淡々と無表情で穴を開けていく。この陶芸作品は見方によっては海綿スポンジのようにも見えなくもない。実はそのスポンジは様々なものを吸収して乾さんを癒してくれているのかも・・・とも思える。ペンや鉛筆を持っても、陶芸と同様に手を小刻みに動かして画用紙に小さな線を重ねていく。同じ所に何回も線を重ねるので、紙に穴が開いてしまう。そうやって描かれた不思議なデッサンや、ブスブスと穴を開けられた陶芸作品は、乾さんの欲望の塊なのだろうか。(大谷)
「無題」2017〜2018
「無題」2018